二人だけのとっておき



青空の下、人々の明るい声が行き交う。商人達の物を売る声に買い物に来た人々の商品を値切る声。活気あふれる市場は
太陽が沈むまで人の声が絶えることがない。その為、犯罪の発生が残念ながら年を重ねるごとに少しずつ増えている。
が身を寄せている警備隊は城下町一帯を主に受け持っているがその中でもこの市場での身回りは重要な場所の一つだった。
慣れない内は人にぶつからないようにすることばかりに気を取られ、注意が周りに行き届かないことも多々あったが、半年を過ぎ
ようやく周りを見ながら歩いてもぶつからないように歩けるようになった。とは言うものの店の商品に思わず目が行き転びそうになった
ことも幾度となくあったが何とか何事もなく無事に仕事をこなせるようになっていた。



                             *

「今日も賑やかだな〜、良いことだ」

「本当、すごい人。でも人が多いって言うことは揉め事も増えるってことよね」

「まあ確かにそうだけどな。活気があるのを見てるとこっちも気分が上がってくる」

「そうね。皆楽しそうだし元気があっていいんだけど……」

が移した視線の先にはヴァルアスの上機嫌な姿が映っている。もともと賑やかな場所が好きなヴァルアスだ。
かなり気分が高揚しているのだろう。もちろんそれだけなら何ら問題はない。だが、本来なら空いているはずの手に
しっかり握られているものの存在がどうにも気になって仕方がないのだ。返ってくる答えの予想は付いていたがこのまま
黙っている訳にもいかない。

「ねえ、ヴァルアス。手に持っているものなんだけど」

「ん?あ、大丈夫、大丈夫。ちゃんとの分もあるから」

「それはいいの!今、私達が何をしているかわかってる?」

「何って、見回りだろ?」

「仕事中よね?休憩時間は隊に戻ってからでしょう。あ、駄目!」

手に持っていた果物とは別にいつの間に買っていたのか、まだ湯気を立てている蒸しまんじゅうを制止する間もなく
口に頬張っていた。少し小ぶりなそれは二口ほどで姿を消しわずかな名残は指に付いた皮だけだった。

「うん、おいしかった。早く食べないと冷めるぞ。と言うことで、はい」

指についた皮を歯でこそぎ取りながら悪びれることなく反対の手でまんじゅうを差し出してくるヴァルアスには小さく
息を吐き出した。

、今の俺達の姿ってどんな風かわかるよな」

そんなを気にすることもなくヴァルアスはいつもの調子で問いかけてくる。

「どんなって普通の格好でしょう」

「そう、警備隊服じゃないよな。ってことは俺達も一般市民なわけ。それなのに何もせずに見てるだけなんて変じゃないか」

「他にも見てるだけの人はいるじゃない。それにお店の人達は私達の顔は覚えているわよ。それなのに仕事もせずに食べたり
 しているなんて」

「店の連中はわかっていても何も言わないさ。そうでなきゃ怪しい奴が店の商品を狙っていたとしても捕まえることができないからな。
 だって堂々と見張っています、なんてやっていたら何度もそんな奴らにうろつかれなくちゃならないし」

「でも制服姿で牽制すればいいんじゃないの」

「奴らを煽って余計に大事になるさ。どこにいるか、どこで見張られているか解らない方がいい。その方が効果がある」

完全には納得ができなかったが再度差し出された手に乗せられたまんじゅうを今度は素直に受け取った。

「おいしい」

「だろう?仕事も大切だけど少しは一息つかないとな。何事も形通りにやらなくてもいいんだよ。結果がでればいいのさ」

さて、見回り見回りと言いながら辺りを見渡すヴァルアスに苦笑しながらは己の中の気持ちが軽くなっていることに気付き
自らにも苦笑を漏らした。

「いつも一息ついてるじゃない」

「やる時はやっているから問題ない。それに一息つくのはと一緒にいる時だけだ」

嬉しくも恥ずかしい言葉が返ってきたことで自分の顔が変わっていくことを誤魔化すようにはヴァルアスを追い抜くと
仕事だと理由をつけて行き交う人達へと視線を走らせたのだった。



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