微笑みの時間 



「何で私が……」

「僕がどうしてこんな事を」

ブツブツ聞こえる独り言を無視し、私はうーんと伸びをした。

雲ひとつない青空が目の前に広がって、風も木々の間を心地よく通り抜けて行く。

「お〜い。ー」

小高い丘の上からヴァルアスの声が聞こえる。
姿は見えないけれど、その声は心なしか弾んでいるようだ。

「こっち来てみろよ、こっち。いっぱいあるぜ」

さすがに鋭い。私はヴァルアスの声のする方へと視線を向けた。
その先には膝丈くらいの草木が連なるばかりで、目的の物はいっこうに見えない。
そんな中から素早く見つけられるなんてすごいんだけど一体なんだろう。
このヴァルアスの張り切りようは。
競争意識っていうか、なんかそれだけじゃない意識も混じっているような気がして
ほんのちょっぴりくすぐったい気がする。

私の前で他の人達に負けたくない、格好良く見せたいって。
それともそれって私が自信過剰すぎる?

嬉しさと恥ずかしさが入り混じってグチャグチャと考えていた私に再度ヴァルアスの促す声が続く。
その声に慌てて置いてあった籠を手に取ろうとしたら、横から伸びてきた手がすっと先に籠をさらって行った。

「リュークさま」

「どうやらあちらの場所の方が良さそうだね。ヴァルアスに案内してもらって、もう少しがんばって探そうか」

リュークエルトのもう片方の手にも籠がもたれ、赤い小さな実が顔を覗かしている。
あまり見つからなかったんだ、と少々はにかんだ顔で笑う彼の顔が差し込む太陽の光で余計にまぶしく見えた。

?」

一瞬動作の止まった私を訝しげに覗いたリュークエルトに笑いながら首を振ると差し出された手をギュッと掴み、
自分から先導するように走り出した。

「おいっ、!どこに行くんだ。僕を置いて行く気かっ!」

「あっちにたくさんあるって。ルティ!先に行っちゃうわよっ」

あわてて立ち上がるルティに私は走りながら声をかける。
その顔が少し悔しそうにリュークエルトとの繋がれた右手に目が行くのを意識しながら。

!何やってるんだっ。全部取っちまうぞ!」

「は〜い!今行くわ!」

リュークエルトと共にルティとサーシェスのいる場所を通り過ぎようとした瞬間耳に届いた声。

「平和なことだ。……まあ、たまには悪くない。気分転換にはきれいな空気を吸うだけでもいいのかもしれない。
 、一応、礼を言っておこうか」

独り言かと思えるくらいのボソッとした囁きがサーシェスの口から呟かれた。

「ふふふっ」

心の奥から笑いがこみ上げてくる。
今回の事は私が自分で勝手に計画したことだったけれどなんのかんの言いながら付き合ってくれる二人に。
私の要求を楽しみながら、私と一緒に気持ちも満たそうとしてくれている二人に。

第二国事官吏室に所属が決まった時、最初はこの不運を嘆いてばかりいたけれど、結局今はこうして私は笑っていられる。
ささやかだけど幸せな時間を過ごす事ができている。

それはこの人達が私の傍にいてくれたから。
そしていつの間にかそう思えるようになった自分に心からの微笑みを送ろう。

この時間がずっと続くように。



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