共に歩むひと



俺は運命を自らの手で選んだ。目の前に広がる数多の行き先の一つを選びとった。
そのことを後悔してはいない。

だがあいつは選ぶ間もなく運命を突き付けられた。逃げることもできず強制的に。
あいつに聞けばそれこそそれが自分の道だったと言うのだろう。
辛くとも苦しくとも誰にも見せず突き進むに違いない。

だから俺は少しでもあいつと共にありたいと思った。何の役に立つかわからずとも少しでも楽になるのなら、と。
しかし俺では共にあることはできても隣に立つことはできない。
あいつと歩んでいくのは、心の全てを受け止めるのは俺では無理だ。
いくら求めてもあいつは奥までさらけ出すことは俺の前ではしないだろうから。

願いを聞き遂げてくれるものがいるのならば俺の願いをかなえて欲しい。
ハイエスウィルトの心を受け止め全てを知っても歩んでいける存在をあいつの傍に。

簡単に叶うことじゃない。わかっている。
それにそんなひとがいたとしても今はあいつも俺も素直に受け入れることはできないだろうけれど。
だが、やがてそのときはくる。来る時、そのことをさびしいと感じたとしてもあいつには俺じゃない
心の片翼が必要だった。



                       *

「もういい加減やめろ」

自らの命が助かったことを知らずに己の権威欲を満たすためだけにハイエスウィルトを排除しようとする
一族の者など助ける価値もない。命を削ってまでの苦痛に耐える姿を見たくなかった。

「俺はドラグーン家の長としてすべての責任を負っている。一族の者が行うことは俺が行うことと同じだ。
 誰かが何かをすればそれは俺の元へと帰ってくる。それが己の誇りを踏みにじる行為だとしても
 止められない俺の実力不足だ。それをとやかく言うようなら長の資格など無い」

「それが明らかにおまえの失脚を狙っていたのだとしても同じことを言うのか?!そんな者など庇う必要などないだろう!」

「俺の命を狙うことは仕方がないことだ。だがそれも含めて治めることができる絶対的な強さを要求されるのは当然のこと。
 ドラグーン家一族の長たる者であるならば」

ハイエスウィルトの視線の強さにサヴィーネは顔を反らした。
全てを受け入れ覚悟を決めた彼の痛みがそのままそこに表れているようだった。
痛くて辛くてとても見ていられない。

「……おまえは優しすぎだ」

「おまえは心配症すぎだよ、サヴィーネ]

命を狙われ、命を削り、それでも一族のためにあろうとする。
それを覆すことをしないのなら俺も覚悟を決めよう。

俺は一族の者であると同時に一人の友としてハイエスウィルトを支えよう。
空に浮かぶ月から守ろう。銀朱に光る月を隠し、おまえの盾となれるように。
俺の力の、命の全てがおまえを守れるように。
おまえに大切なひとができた時にも……俺はおまえごと守ろう。

アトゥース家は常にドラグーン家と共にある。
この力がある限り、この想いとともに歩んでいこう。

俺とおまえの命が未来へと受け継がれるそのときまで。



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