素直になれない　



闇は私を引き寄せる。
いや、それとも私が闇を引き寄せるのか。

自分の意思とは関係なく、争いは起こり血が流れる。何もしていないのに、誰もが恐怖に慄き、その後凍り付いた眼で私を見る。

これはお前のせいなのだと。おまえが起こしたことなら終わらせることもできるだろう、と。

力を使い、事が解決しても何も変わることはない。人は恐怖に支配され、私から遠ざかる。私が何を言っても心に届くことはない。
異質であるもののことなど。



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

「サーシェスって馬鹿？」

初めて言われた時は何を言っているのかわからず、しばらく言葉が出てこなかった。
それほど理解ができなかったのだろう。それはそうだ。今までそんなことを言われたことなどなかったのだから。

「あの～聞こえてますか？」

私の混乱などに気付かずに目の前の少女は呑気に顔の前で手をひらひらと振っている。
普段の私ならその言葉遣いと態度に一言も二言も注意しているところだ。それなのに何も反応がないと来れば意識はあるのかと確かめずには
いられなかったのだろう。無防備な姿をさらしてしまったことに少し動揺しながら表面上はそのままで口を開いた。

「失礼なことを。頭は決して悪くないとは思うが、いかにしてそう見える？」

「そういう意味じゃなくって、だから何でそこで言い返さないの！自分のせいじゃないって言えばよかったじゃない」

「言い訳に聞こえる。それに何を言ったところで言葉が届かないのでは仕方がない」

それにあながち私のせいではないとも言えないかもしれない。何かが起これば力を使わざるを得ないこともある。
そして空に銀朱の月がある限り、望まぬとも絡めとられる。誰しも運命から逃れることは決してできない。

「あのねえ、何でそこで諦めるのっ。ああ、確かに馬鹿は相手にできないかもしれないけどだからって引いていいものでもないと思うの」

憤った顔に正面から見つめられ、捕らわれているうちに柔らかい体がとすっと小さな音を立てて降ってきた。

「フレイア……」

「……弱みを見せたくないのはわかるけどたまには逆らってみてもいいのよ。あなたは自分の責任を取れる人。
　あなたをちゃんと見ている人ならそれくらいわかっている。それにね、いろんな事情を知っている私達には甘えてもいいんじゃない？」

からかうようにそれでいて優しく言葉を紡ぐ。臆病で頑なな心が溶けるようにゆっくりと。
認めたくない気持ちでさえ解いていく。そんな不思議な力が怖いと同時に心地よい。

そう、それほどまでにもう受け入れてしまっている。たまに憎らしくて恐ろしく大切だと感じるこの少女を。

「甘えたいのはおまえだけだ」

小さく呟いた言葉は届いていないだろう。問いかける表情を顔をそむけることではぐらかす。
たわいのない時間が大切で愛おしくてもっと続けばいいと願わずにはいられない。



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