改革の兆し



「フォルト、どうしたの?!」

名前を呼ばれ振り向いた先にいた青年の顔は見事に腫れ上がっていた。訓練中の怪我などは多少は
あるのかもしれないがセシリアがここに来てからは怪我らしい怪我をしている姿を見たことはない。
年相応、いや年よりも落ち着いている彼は全てにおいて要領よく立ち回っているようだ。
対人関係のみならず何かをするにつけても失敗などとはとても縁遠く思えた。その彼らしからぬ姿に
セシリアは動転してしまったようだ。いつもなら怪我人を見れば頭で考えるより体が即治療をと反応するのに
フォルトに促されてようやくあたふたと治療の準備をする始末だった。

「い、痛っ」

「あ、ご、ごめんなさいっ!大丈夫っ?」

「ああ、大丈夫だ」

腫れた顔を冷やした後、自ら調合した薬を取りだした。濃縮されたクリーム状の薬の方が効き目は早いが
塗り伸ばす時に皮膚が攣れて痛みが生じるだろう。その為まずは効き目は柔らかだが皮膚を傷めない液状の薬を
染み込ませた布をそっと当てた。

「気持ちいい」

「痛くない?」

「少しだけ痛い」

いつだって素直に答えるフォルトにセシリアの顔に自然と笑みが浮かぶ。痛みに弱い訳ではないのにセシリアの前では
隠さないその態度は心をどこかほっとさせてくれる。疑心や虚心の渦巻いた場所にいた身にはそれはとても安心できるものであった。

「数日で痛みも取れますからもう少し我慢して下さい。薬を渡しておきますからちゃんとつけるのを忘れないように」

「セシリアがやってくれないのか」

「……え?」

「俺の専属だろう?最後まで面倒みてくれないと」

フォルトの言葉に頭が一瞬固まってしまう。自分一人でできるだろうとかわざわざ治療に来る時間がもったいないとか、
でもそれよりも何よりも……

「専属ってなんですか!」

「専属だろう?セシリアは。俺専属の治療者。だから最後まで面倒を見て当然だ」

「そ、そうですけどっ」

言葉通り、もちろんそうなんだけど言い方が微妙でしょう!その言い方じゃ他の言い方にも捉えかねない。

「じゃあよろしく」

「え、ちょ、ちょっとフォルト!」

差し出した薬を受け取ることもせず立ち去るフォルトの姿を茫然とそして去り際に残した笑みに頬を赤く染めながら
セシリアは言いたいことも反論することもできずその場に立ち尽くし見送る結果となってしまったのだった。



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