本能



「ヴァルアス、何してるの?」

森の中の道を抜けてお使いへと行く途中、ヴァルアスがきょろきょろと辺りを見始めた。
立ち止まって辺りを見るだけなら普通だが屈んだり顔を前に突き出したりと落ち着かない。
何だかその様子が一歩間違えれば不審者とも言えない行動に思えてフレイアは隣から一歩後ろへと退いた。

「フレイア?どうしたんだ?」

「どうしたって……それはこっちが聞きたいわ。落ち着かないけど何かあるの?」

「俺普通にしてるぜ?」

「普通じゃありません!十分挙動不審よ。何なのいったい」

「そうか?フレイアは何も感じないんだよな?やっぱり活性化してるってことか」

ぽりぽり頭を掻きながら体の動きを止めたがやはりどこかそわそわしている。目の動きは活発だし
鼻もぴくぴく動いているしその様子はもう一つの体の時のような動きをしていた。

「月は淡黄月でいつもと変わらないわよね。じゃあ月が原因じゃないの?」

「たまにあるんだよ。もう一つの姿の時のように五感が敏感になる時が。今もそう。体が勝手に反応しちまう」

「自分の意志じゃ抑えられないの?」

「無理だな。そもそも後から気がつくことが殆どだし今だってそこにいるかと思うと今すぐにでも
 飛び出して行きたくて仕方ない」

「そこにいるって何がいるの!?」

まさか魔物じゃないでしょうね!嫌よ、また襲いかかられるのは!

「ウサギだよ、ウサギ」

ウサギ……?

「森の奥から餌を探しているうちにここら辺まで出てきちまったんだろうな。一羽だけじゃない、数羽いるぜ。
 弓は持っていないけど今なら素手でもいける。さっきから腹が減って腹が減って。まだ時間は大丈夫だから
 ここらで寄り道しても……」

「ばかぁ!だめよ、だめ。ぜったいだめ!!」

話をしている時から目が輝いて舌なめずりしてそんなんでウサギを捕まえるなんて絶対に駄目!

きっと捕まえたら最後、一気にそのまま食べちゃうかもしれない。
大抵のことは慣れて根性も据わってきたと思うけどそんなの絶対に見たくない!!

「駄目か?」

「駄目です!」

ほんの少ししょぼんとして下から縋るようにこちらを見たとしても認められません!

「わかったよ。我慢する。んじゃ俺の意志が弱まらないようにとっとと先に行こうぜ」

「ごめんね」

「いいさ。行こうか」

我慢させちゃうことになるけどその光景を目の当たりにする勇気はない。
もう一つの姿であれば大丈夫かと言えばそれもその時になってみないとわからないだろうな。

できれば本能むき出しの姿を見るのは先送りにしたいと思うフレイアだった。



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