ひととき



「ああ、もう。何やってるんだよ!」

訓練を終えた後、自分の使った木刀の手入れをしていたフレイアの様子を見ていたヴァルアスは焦れたのか
フレイアが言葉を挟む暇もなくその手から奪うように取っていった。

訓練に使うとはいえ、自分の道具、武具とも言えるもの。手入れは自分で行なうのが当然だ。
それを一番承知しているヴァルアスが背いているのは部下がまだいるこの場ではあまり良いとは言えないだろう。

「ヴァルアス、大丈夫。自分でやるから」

慌ててヴァルアスの手から取り戻そうとするフレイアから逃れるようにヴァルアスは背中を向けてしまう。

「ヴァルアス!」

「わかっているけどさ、おまえが扱うものだからきちんとしないとな。次にやり方をもう一度教えるから今回は俺がやる」

「でも……」

「あいつらは放っておけって。焼もち焼いているだけだから。本当は自分が教えたいんだよ」

牽制するようにわざと聞こえるように言いながら見せ付けるヴァルアスは宝物を持っている子供のようで
自然と笑えてきてしまった。
だって本当にその通りに皆が口々に隊長ずるいだとか次は駄目ですからねとか言うのが聞こえてきたから。
甘えているのはわかっているから次は失敗をしないように頑張らなくてはと思う。
でもこんなヴァルアスと皆を見るのは気持ちが通じているのを感じられて嬉しいと思うフレイアだった。



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