笑顔と戒め 



幼い頃から薬草の知識を徹底的に覚え込まされた。薬草を採りにあちこち行かされたり文献を読みあさったり、これでもかと言う位徹底的に。
だが調合を許されたのは何年もたってからだ。まだ早いと言われたが強引に実行した結果、周りを巻き込んでの大変な騒ぎになったことは
今でも納得がいかない。ほんの少し部屋の壁が焦げた程度のことなのにどうしてああも騒ぎ立てるのだろう。
まあ、何はともあれそうしたことを積み重ねて現在の自分がある。其れほどまでに薬師になる道は厳しかった。

「ルティ、これやっちゃったからね」

軽く声をかけるフレイアにルティの体が自然と反応する。今度は何をしでかしたのだと思っても仕方がないことだと解って欲しい。
簡単に作業をしては失敗を繰り返す目の前の少女は過去にしてきた己の行動を本当に反省しているのだろうか。

「は?誰が勝手にやっていいって言った?」

「ちゃんと見てたわよ」

「見ていればできるってものじゃない。しかも見てたからって初めてやることだろう……ちょっ、変な臭いがしているぞ」

「そう?私は感じないけど」

「おまえの鼻おかしいんじゃないのか?え……フレイア、何をやっている!」

「だって変な臭いがするからって」

「だからって素手で触ろうとするな。危険だろう!」

慌ててそのまま触れそうになっていた手を掴むと片方の手で器具取り、調合されていた薬草を静かに器具で避けながら
頭の中で分析する。

「……何とか大丈夫そうか」

発火することも有害なものを発生することもなさそうだ。この強烈な匂いは単に組み合わせの悪さからきたものだろう。

「ね、大丈夫だったでしょう」

大丈夫だったじゃない。何もなかったからよかったものの何かあってからではこんなに心は平静ではいられないのをわかっているのか!

「フレイア、絶対に僕のいない所で勝手に調合するなよ」

「もちろん、わかっているって」

「そう言って何度同じことを繰り返している!」

「ルティがいるから安心してやってるの」

にこっと笑いながら言う言葉。

全く達が悪い。言葉そのままの意味しかないのにそれ以上の意味を考えてしまう自分が嫌になる。
だがそれほどまでに自分がフレイアを大切に思い始めていることを否定することもできない。
安心しきった笑顔に自分の感情まで引きずられていることが嬉しいのだからこれも自分への試練だと諦めて己をもっと磨かなくてはと
誓いを新たにしながらもそっと静かなため息をついたルティだった。



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