甘い棘



「いたっ」

小さな声を上げたフレイアに別の作業台で薬草の調合をしていたルティは手を止め視線を向けた。

「どうした」

「分けていた薬草の一つに棘があったみたいで指に刺さっちゃった。最初におおまかに分けて注意していたつもり
 なんだけど他のやつに混じってあったのかな」

「痛むか」

「ううん、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど。でも思ったより棘が大きかったからやっぱり痛いかな」

「落ち着いている場合か!腕そのままにしていろよ」

ルティは素早く道具のしまってある棚に行き目的のものを探し出すとフレイアの傍に来て
一端道具を机の上においた。そして片方の手でフレイアの手首をしっかり固定して引き寄せ、
もう片方の手で腰を抱きこむ。

「ルティ!?」

「騒ぐな。動くと棘が抜けないだろう」

言いながら腰の手を外し机の上においた道具を取ると刺さっていた棘を素早く抜いた。

「……っ!」

一瞬とはいえ思ったより大きな棘を抜いた痛みに顔が歪む。フレイアはじんわりとくる痛みをやり過ごそうと
他へと神経を向けようとしたが、次の瞬間突然襲った出来事に失敗に終った。

「え……ち、ちょっと!や、やめて。お願い、ルティ!」

棘を抜いた先、フレイアの視線の先にあるのはルティの唇。
柔らかく温かい感触がスッと痛みを吸い取るかのように動かされる。

「……消毒だ」

「……!?」

言いながらフイッと逸らされた顔の表情は見えないが首の辺りがほんのり赤くなっている。
どうやら自分のしたことに照れているらしい。

それきりこちらを見ようとしないルティにフレイアは自分だけが恥ずかしかったんじゃないという
気持ちとどこか心地よい安堵感に身を任せられた。

「ルティ、ありがとう」

そんな気持ちのまま告げたフレイアの言葉に目の前の肩が小さく揺れる。
感じてくれているはずなのに未だに照れてこちらを向いてくれないルティにフレイアはもう一度言った。

「ありがとう」

「……気をつけろよ」

薬瓶の並んだ棚へと手を伸ばし、ぶっきらぼうに言うルティの素直じゃない優しさにフレイアは笑みを浮かべたのだった。



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